精神的自由の拘束と、有事法制のための監視社会へ

 近時、愛国心教育や、国旗国歌の強制が進められている。これら思想・良心の自由にかかわる分野に関しても、今後処分歴その他に関し行政機関による個人情報管理が行われることが容易に予想される。

「逸脱した行動が、記録され、情報として永続的に蓄積され、利用され、伝達されることに不安を抱くものは、そのような行動によって目立つことを控えようとするであろう。」として、付番制度を個人の自己決定権を侵害するものとして違憲と断じた1983年のドイツ連邦憲法裁判所の判例は、まさに住基ネットにも妥当するものである。

 現実に、有事法制との関係も密接である。

2003年4月には、防衛庁が、自衛官勧誘のため、適齢者の健康情報、親の職業などを含む個人情報を、全国の自治体に照会し、557もの自治体でこれを提供していたことが判明した。

 もともと、国民総背番号制は、徴兵制を前提として導入されようとしたという歴史的経緯がある。また、1982年、レーガン政権下のアメリカで、アメリカ版国民総背番号制である社会保障番号制度を利用した兵役登録拒否者狩りが行われた。

 憲法13条の公共の福祉について時代錯誤の外在的制約説を採り、個人の命よりも、国民の生命・健康にかかわらない国家政策を優先させる政府が、有事法制の制定と前後して稼働させた住基ネットとは一体何か。

「国家は国民に奉仕することにしか存在理由がなく、国民は、国家がこれを踏み外さないよう監視しなければならない」という近代憲法・近代国家にふさわしいものではなく、「国民は、国策に奉仕しなければ存在理由がなく、国家は、国民がこれを踏み外さないように監視する」ための装置として機能しうることは明らかであろう。