監視社会の基盤としての住基ネット

 現在、行政機関は、違法の疑いの強い個人情報の取得や利用を公然と行っている。

 全国の主要な幹線道路・高速道路の約700カ所には、通行する全車両のナンバーを捕捉する監視カメラが取り付けられており、車両によって移動する全国民の行動動態は警察庁によって逐一捕捉され、コンピューターによって記録保存されている。盗難車両の発見等のためと説明されているが、実際にこれによって直ちに盗難車両が摘発されたという事例は少ない。仮に捜査目的としても、これほど大がかりに個人情報を取得することは令状主義やプライバシー権との関係で問題が大きい。

 近年、防犯カメラの設置を促進する、いわゆる生活安全条例が全国で制定されているが、裁判官の著作にかかる「刑事公判の諸問題」でも違法とされている防犯カメラによる撮影結果の、刑事手続きへの利用が行われている現状において、「防犯」のために官民一致でカメラの設置を進めることは、国民の行動の自由やプライバシー権との関係で重大な問題がある。

 本来、必要のない、あるいは目的を超えた個人情報の取得自体が法によって禁止されるべきである。また、やむを得ない目的を超えた個人情報の流用は厳密に禁止されるべきである。しかるに、住基ネット稼働時に「所要の措置」として求められていた個人情報保護法は稼働時には成立せず、その後成立した法律は、民間に対する国家監視をする内容となり、行政機関に対する規制は事実上ほとんど行っていない。

 わが国は、行政機関がルールもなく、個人情報を取得し、利用してきた国である。このような状況下において、国民に各行政機関共通の番号を付する行為は、行政機関の取得する膨大な個人情報の名寄せを可能とするものであり、国家による個人の管理、監視を可能とする行為である。

 住基ネットは、IT社会の基盤と言うよりも、監視社会の基盤である。

 訴訟では、付番による個人情報の統合を大きな問題と捉え、「国家による全人格的な管理の客体とされない自由」たる人格権を侵害するものと構成している。