住基ネット差し止め福岡訴訟上告棄却決定

1 2009年3月31日、最高裁判所第3小法廷は、福岡高裁判決に対する上告を棄却し、上告受理申立を受理しない決定を下しました。

2 直前の3月24日、福岡高裁より5日早く出されていた東京高裁の斎藤貴男さんの訴訟に関する上告棄却・上告不受理決定が同じ第3小法廷から出されていました。

 私は、日弁連の仕事でたまたま東京におり、東京訴訟の渡辺事務局長から直接そのことをお聞きしていました。気になったので、翌日最高裁の担当書記官に尋ねたところ、福岡高裁判決に対する決定はまだでていないことが確認されました。

 ほぼ同時期に上告した、争点が同一の訴訟で、こちらの方は別の取り扱いがなされているのかなあと思って多少の期待を持っていました。

しかし、やはり東京に出張中であった3月31日に、事務所からのメールで、不当決定が出されていることを知りました。

 決定の内容は、まさに3下り半であり、原告団、弁護団の思いは、全く無視されたと言うほかありません。しかも東京にいるときというタイミングのため、記者レクはできませんでした。

 2008.3.6最高裁判決は、情報漏洩等の危険に関し、「受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏洩等」について、「具体的な危険が生じているということもできない。」と判断したのに対し、福岡高裁判決は、このような人的要素からの情報漏洩に対してすら、すべて「本人確認情報が容易に漏洩する具体的な危険」が無ければよいという基準を定立し、3.6判決とすら矛盾する判示内容でした。

 しかも、これは、福岡高裁において、福岡県内の自治体の住基ネット担当職員が、あまりにも住基ネットのセキュリティについて知識を持たず、情報セキュリティに関する責任を他の部署に押しつけ無関心であったところから、単純な漏洩の危険は否定のしようがなかったためです。

3 最高裁は、電子社会における情報管理の重要性や、それに対応したプライバシー権・自己情報コントロール権の重要性に関する原告らの訴えを無視しただけではなく、自らが大阪高裁の違憲判決を逆転させてまで定立した情報漏洩の基準と明白に異なる基準と採用した福岡高裁判決との間の齟齬さえ全く無視して闇に葬り去りました。

 筋からいえば、3.6最高裁判決と異なる基準を採用することの当否を検討し、合理性を見いだせないのであれば、福岡高裁判決を破棄し、最高裁が定立した情報漏洩の単純な「具体的危険」の有無を判断するよう、福岡高裁に破棄差し戻しするべきでした。少なくとも、3.6最高裁判決と同じ基準によっても問題がないかどうかについて、自らの見解を述べた上で、上告を棄却すべきでした。このような行為を全く行っていない最高裁は、憲法の番人としての役割を放棄したものと言うほかありません。