2 ウィルス性肝炎患者の救済を求める全国B型肝炎訴訟九州訴訟

1 B型肝炎とは
 B型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こる肝臓の病気です。
 一般に,成人が初めてHBVに感染した場合,そのほとんどは「一過性の感染」で治癒し,臨床的には終生免疫を獲得し,再び感染することはありません。他方,乳幼児期(0~6歳)にHBVに感染した場合,HBVを異物と判断できずにHBVに持続感染します。このHBVに持続感染していることをHBVキャリアといいます。
 HBVキャリアの人は全国に約80万人と推定されています(2005年時点。5~74歳のキャリア数。国が責任を負う範囲は、この年齢層の一部である。)。このように膨大な数のB型肝炎ウイルスキャリアが存在するのは、過去繰り返し行われた注射器等を連続使用して行われた集団予防接種等にも一因があります。
 HBVキャリアの人のほとんどは,10歳代から30歳代にかけて肝炎を発症します。そして,HBVキャリアのうち,10~15%は慢性肝炎を発症し,治療が必要となります。慢性肝炎を発症した人は,やがて肝硬変に進行します。さらに,HBVはがんウイルスであることから,肝がんを引き起こします。この場合,慢性肝炎のみならず,肝炎を発症していないキャリアの人でも肝がんを発症することがあります。
 HBVキャリアをはじめとした肝炎患者は,ウイルスの増加を抑える等の治療を行う必要があり,毎月の治療費は2万円程度にも上っています。また,ウイルス性肝炎についての誤った知識による差別にも苦しんでいます。
 なお、免疫機能が十分に発達した後にB型肝炎ウイルスに感染した場合、一過性肝炎となり、ウイルスを排除して完全に治癒します。だから、看護師の方の針刺し事故であったり、入れ墨、ピアス、性感染などの場合は、急性肝炎となって治癒するため、慢性肝炎とはなりません。原告らの中に、このような他原因の患者が紛れ込んでいるのではないかと誤解している人もいるようですが、原告らはすべて幼少期感染なので、そういうことはあり得ません(6歳までの間に性交渉をしたりする可能性がないから)。

2 最高裁判決と国の居直り
 平成元年6月30日、北海道に住む5人の原告は、肝炎に感染させる危険性を認識しながらあえて予防接種の回しうちを行ってきた国のずさんな公衆衛生行政の違法性を訴え、札幌地方裁判所に提訴しました。
 平成18年6月16日、最高裁第2小法廷判決は、集団予防接種等とB型肝炎ウイルス感染の因果関係を一般的に肯定し,国の責任を認めて原告全員の賠償請求を認容しました。
B型肝炎ウイルスが発見されたのは1973年のことですが、注射針を使い回したり、注射針を取り替えても、筒を換えないまま回し打ちをしたりすると、肝炎が蔓延することは戦前から知られていました。このような「血清肝炎」を防止するために、一般の医療機関においては、一人ずつ注射針・筒を換え、洗浄の上15分以上煮沸するなどの消毒がなされていました。厚生省も、このことを十分に認識していたにもかかわらず、費用やわずかな手間を惜しんで、1988年ころまで回し打ちを黙認し続けてきました。
最高裁判決は、予防接種と、原告らの感染との因果関係を、以下の基準で肯定しました。B型肝炎においては、免疫機能が不十分な乳幼児期(6歳まで)に感染しない限り慢性化しないという知見を前提とし、その有力な感染原因としては、①キャリアの母親からの分娩の際の母子感染、②集団予防接種における回しうちしかないことから、①が否定できれば、国の責任が問えるというものです。
 この判決は、国に対し、B型肝炎患者の被害回復のための措置をとることを強く求める内容でした。この基準に従えば、全国にいる慢性B型肝炎患者・キャリアの方々の相当数が、集団予防接種の際の回しうちの被害者だと考えられるからです。
判決直後、厚生労働省の幹部は、新聞の取材に対し、「過去の公衆衛生行政の責任を、今からとらなければならない。影響が大きすぎて正直、今後の展開が想像つかない。」「このまま何もしないわけにはいかない。肝炎対策全般の底上げを考えなければ。」とのコメントを出しています。
 最高裁判決後,当該訴訟原告・弁護団,肝炎患者団体等は,国・厚生労働省と交渉を行い,過去の集団予防接種によってわが国にB型肝炎ウイルスを蔓延させたことが最高裁で明らかにされたのであるから,国にはウイルス性肝炎患者の救済対策を採る責務があると迫りました。
 しかし、ほとぼりが冷めるのを待つと、厚生労働省は、「判決は、5人の原告に対するものにすぎない。」として、自らの過ちに基づく被害調査すら一切行わないまま全国の患者を放置し、切り捨てることを宣言しました。

3 B型肝炎訴訟
 最高裁が認めた国の明確な責任に基づく賠償と、患者が安心して治療を受けられる体制の確立を求める北海道弁護団からの呼びかけに答え、全国で弁護団が結成され、2008年には各地で提訴されています。
 3月28日の札幌地裁を皮切りに、福岡地裁、広島地裁、鳥取地裁で5月30日に、静岡地裁で7月23日に、東京地裁と大阪地裁で7月30日に提訴がなされました。

* 2012.2.29追加提訴
 2012年2月29日16:00,福岡地方裁判所に、以下の通りのB型肝炎九州訴訟の追加提訴を行いました。
 本日は、全国一斉追加提訴だったので、九州訴訟では、熊本地裁と鹿児島地裁にも提訴しています。
 九州訴訟原告団が500名を超え、全国の原告団が3000名を超えました。

 九州訴訟(福岡地裁提訴分。2012.2.29現在)
福岡290名、佐賀36名、大分25名、熊本14名、長崎43名、鹿児島12名、宮崎17名、山口14名、沖縄3名、その他10名
 無症候性キャリア56名、慢性肝炎199名、肝硬変53名、肝ガン84名、死亡29名(遺族72名)
 3 九州訴訟全体の原告数
今日、福岡で103名の原告が提訴したため、福岡地裁における九州訴訟の原告は合計464名に(被害者数421名)。
熊本、鹿児島を会わせると、今日、115名(被害者108名)提訴したため、
九州訴訟原告は、505名(被害者462名)に。

* 全国訴訟・2012.2.29の提訴状況
 12地裁439名(被害者382名。以下同じ)
 札幌0,仙台18名(18)、金沢16名(8)、新潟26名(16)、東京104名(92)、長野0,静岡8名(5)、名古屋35名(33)、大阪89名(77)、松江12名(9)、鳥取16名(16)、福岡103名(96)、熊本6名(6)、鹿児島6名(6)
今日提訴後における全国の原告3116名(被害者2857名)

4 支援のお願い
 被害者の方たちの被害は様々です。働き盛りで、闘病のために退職を余儀なくされ、あるいは、前触れもなく突然肝ガンと余命の宣告を受け、本来送ることのできたはずの平穏な人生を理不尽に奪われています。すでにお亡くなりになった被害者も少なくありません。また、女性の被害者には、自らが被害者であるにもかかわらず、子供たちに母子感染(2次感染)させた加害者として、2重の苦しみを背負っている方も少なくありません。
子どもたちの生命・健康を軽んじ、感染症予防施策の名の下に感染症を蔓延させた国が、最高裁判決を無視して、このような被害者を放置し、居直ることは許されません。
 国は、この訴訟の中で、最高裁判決で否定された他原因の一つである、「家庭内感染」の一部の「父子感染」だけをことさらに取り上げ、古い資料を基に「新しい知見だ」と強弁するなどして、因果関係を徹底的に争う姿勢を示しています。
弁護団は、国による不当な訴訟の引き延ばしを許さぬよう法廷で闘うとともに、国民世論を盛り上げることによって国を包囲し、和解所見に基づいて早期に全面解決を勝ち取ることを目指しています。そのために、さらなる原告の掘り起こしや、支援団体と連携しての広報活動に取り組みます。
 2009年1月には全国原告団を結成し、その後国会要請行動を繰り返しています。
しかしながら、B型肝炎被害者に対する謝罪や償いについては、国は争う姿勢を変えませんでした。2010年3月の和解勧告後も、解決を引き延ばしてきました。
 2011年6月28日、全国原告団は、細川厚生労働大臣との間で、B型肝炎訴訟の解決に関する基本合意書を締結し、菅首相と首相官邸で面談の上、公式に謝罪を受けました。
私たちは、B型肝炎被害者の方々が1日も早く償いを受けられるよう、また、B型肝炎を中心としてウイルス性肝炎の治療が充実されるよう闘っていきます。
 今後ともB型肝炎訴訟へのご支援をお願いします。

基本合意1周年チラシ
全国のB型肝炎電話相談窓口