* 第2次再審請求申し立て(2010.8.30)

 2010年8月30日13:30、原口アヤ子さん(83)は、鹿児島地方裁判所に、殺人・死体遺棄事件について再審の開始を求める再審請求申し立てを行いました。
 足利事件の菅家さん、布川事件の桜井さん、志布志事件の川畑さんという、全国のえん罪被害者が応援のために駆けつけ、アヤ子さんにエールを送りました。
 事件が起こったのは、1979(昭和54)年10月、アヤ子さんの義理の弟に当たる被害者は、牛小屋の堆肥の中から遺体となって発見されました。
 志布志警察は、被害者の兄2名を追及し、2名で殺害し、2名で埋めたという自白を取得しました。しかし、その後、3名で殺害し、4名で埋めたという自白に変化し、アヤ子さんも殺人犯人とされてしまいました。アヤ子さんは、否認し続けましたが、共犯者とされた3名の自白によって有罪とされ、懲役10年の刑に処せられ、最高裁で確定しました。
 アヤ子さんは、刑務所で模範囚となり、「反省したら仮釈放ででられる」と言われましたが、「やっていないので、反省はできない」として、満期出所しました。
 1995(平成7)年4月、第1次再審請求が行われました。
 アヤ子さんの再審請求の求めに対し、調査を行った弁護団は、共犯者とされた3名に知的障害があること、3名とも、刑の確定後、「自分はやっていない」と言っていたことが分かりました。共犯者とされた1人は、1997(平成9)年9月、アヤ子さんに続いて再審請求を申し立てました(私は、この年の4月に弁護士登録をし、この申し立てに参加しました)。
 2002(平成14)年3月26日、鹿児島地方裁判所は、共犯者の殺害行為と、遺体の状況とは矛盾するという法医学鑑定を採用し、再審開始決定を下しました。
 しかし、2004(平成16)年12月9日、福岡高裁宮崎支部は、この決定を取り消す逆転決定を出し、2006(平成18)年1月30日、最高裁は、特別抗告を棄却しました。
 今回の第2次再審請求における新証拠は、以下の通りです。
 ① 法医学鑑定書
 確定判決が認定した「タオルの両端を持って力一杯引っ張った」という絞殺方法は、遺体の状況と矛盾するという、新たな法医学者による鑑定
 ② カーペット等再現実験報告書
 確定判決の唯一の客観的証拠といえる殺害現場のカーペットの汚れの位置が、自白や確定判決の認定事実と矛盾していることを示すもの
 ③ 供述審理鑑定書
 共犯者とされた被害者の2名の兄の自白供述について、心理学者の鑑定の結果、体験供述としての特性を見いだすことができないとするもの
 ④ 精神科専門医の意見書
アヤ子さんに続いて再審請求を行った、被害者の甥の治療を行った医師による、知的障害による迎合的、非暗示性を有する性格を明らかとするもの
今回の申し立ての特色は、本件確定判決の有罪認定の根幹が、共犯者とされた3名の自白供述に依存していることから、直接、これらの自白供述を弾劾するものとしての新証拠を探し、構成したことです。
 足利事件、氷見事件、布川事件、志布志事件、宇和島事件など、誤った自白によるえん罪事件が次々と明らかになっています。これまでの刑事裁判は、自白さえあれば、「自分の不利なことをわざわざいう者などいるはずがない」という固定観念に従って、その信用性を十分に吟味することなく、多少の矛盾には目をつぶって次々と有罪判決を下してきました。
 しかし、これらのえん罪事件をみれば、捜査官が上手に脅し空かしをすれば、誰もが絶対にいいたくない「(殺していないのに)私が殺しました」「(やっていないのに)私が強姦しました」という自白が取得できることが明らかになっています。しかし、裁判で「捜査官に脅かされた」と訴えても、その捜査官が法廷で「私が脅しました」と言わない限り全く信用されず、「反省していない」として重い刑を言い渡されると言うのが現実です。取り調べの全過程の可視化が求められるゆえんです。
 知的障害がない人でも、捜査官の脅迫を受けると、心ならずも自白させられてしまいます。ましてや、知的障害がある人は、迎合的、非暗示的なので、抵抗することはとても困難です。
 刑事裁判が安易に信用してきた「自白」を、証拠の王様として絶対視せず、慎重に吟味しない限り、えん罪は防ぐことができません。
 本件大崎事件は、法医学的観点からも、共犯者とされた者が全員やっていないと後で訴え始めたということからも、捜査官の脅迫を疑わせる証拠が存在することからも(被害者の甥は、再審請求審で「捜査官から、陰毛を出せ、ほかにも(性犯罪を)やっているだろう。」と脅かされたという供述を行い、その後開示された証拠の中から、この供述の真実性を裏付ける「陰毛の任意提出書」の存在が判明しました)、明らかにえん罪事件です。
 アヤ子さんはすでに83歳であり、「無実をはらさない限り死ねない。」と訴えています。
 1日も早く再審を開始し、アヤ子さんの無実を明らかにしなければなりません。
 ご支援をよろしくお願いいたします。